【解説】OECD、第2の柱「Side-by-Side」ガイダンスに合意 ― 複雑化する国際税務と実務への影響

2026年1月5日、OECDはBEPS包摂的枠組み(IF)において、第2の柱(グローバル・ミニマム課税ルール:GloBEルール)の運用を左右する新たな執行ガイダンスパッケージに合意しました。

今回の合意は、2025年以降の米国の動向を受けた「Side-by-Side(SbS)」アプローチを中心に、実務上の負担軽減を目的とした複数のセーフハーバーが盛り込まれています。本記事では、その要点と企業が直面する課題について解説します。

目次

執行ガイダンスパッケージに含まれる「5つのセーフハーバー」

今回の「Side-by-Sideパッケージ」は、GloBEモデルルールのコメンタリーに組み込まれ、以下の5つのセーフハーバー(簡便法)で構成されています。

  1. Side-by-Side(SbS)セーフハーバー 本パッケージの中核です。適格国(現時点で米国が唯一の対象)に本拠を置く多国籍企業が、一定の要件を満たせば、所得合算ルール(IIR)や軽課税所得ルール(UTPR)による追加税額(トップアップ税額)をゼロとみなす措置です。
  2. 実質ベースインセンティブ(SBIE)セーフハーバー 給与や有形資産の額に基づいて課税対象から除外できる「実質ベースの所得除外(SBIE)」に関連するものです。特定の税額控除などの税恩典を適切に反映し、実態のある事業活動を行う企業の負担を抑制します。
  3. 最終親事業体(UPE)セーフハーバー 最終親事業体が所在する国の税制を一定の条件下で尊重し、二重課税のリスクや、国ごとに異なるルールを適用することによる過度な申告負担を回避します。
  4. 移行期間CbCRセーフハーバーの1年延長 当初の期限を延長し、国別報告書(CbCR)を用いた簡便な実効税率計算を引き続き認めることで、企業の準備期間を確保します。
  5. 恒久的な簡易実効税率(ETR)セーフハーバー 移行期間終了後も、継続的に計算実務を簡素化するための恒久的な枠組みです。

議論の背景:米国の特殊性と反発、そして「事務負担」の壁

今回のSbSアプローチが議論された背景には、米国の全世界課税システムという特殊な背景があります。

米国はもとより国外所得に対しても広範な課税権を行使しており、申告事務負担が極めて重い国です。そのため、Pillar 2という新たな、かつ極めて複雑な仕組みの導入に対しては、米国内から強い拒絶反応があるとされています。また、OECDを中心としたBEPS 2.0の取り組みは、市場国での課税権を強化するものであり、GAFAMのような超巨大多国籍企業が多数本拠を置く米国にとってはもとより面白くないはずで、そうした中で事務負担を増加させるような取り組みは到底受け入れられないという反応になるのは頷けます。今回の「Side-by-Side」は、米国のミニマム税制とOECDのルールを「並行して(Side-by-Side)」認め合うことで、制度の破綻を回避しようとした政治的妥協の産物と観ることもできそうです。

実務の属人化と「コンプライアンス格差」の懸念

制度の簡素化が謳われる一方で、実務の現場では深刻な「二極化」が進んでいます。

移行期間CbCRセーフハーバーの延長など、移転価格に関わる議論は申告実務に直結します。しかし、この複雑かつ流動的な議論を追いかけられるのは、単なる移転価格の専門家ではなく、「国際税務」と「申告実務」の両方に精通した一部の高度な専門家に限られています。

  • リソースが十分な企業: 高額なコンサルティング・フィーを支払い、最新の「セントラルレコード(注)」を確認しながら適正な対応が可能。
  • リソースが限られる企業: 国際税務の経験が限られたり、多額のコスト負担が難しい企業にとっては、制度の影響を受けながらも対応が後手に回らざるを得ない「難題」となっています。

(注)セントラルレコード(Central Record):セントラルレコードは、各国における「適格IIR」や「QDMTT(適格国内ミニマム税)」の導入状況や、QDMTTの適格性を判断するための適格性確認メカニズムです。完全な立法を待つ間、暫定的に各国の法制の適格性を認識できる簡素化された手順として、GloBEモデルルール・コメンタリーの付属書Bに規定されています。

弊社の見解:真に「安定」した制度設計への期待

課税の公平性を追求する本制度の必要性は十分に理解できます。しかし、現状のルールはあまりに複雑であり、納税者である企業への負担が過大です。

今後は、単なる政治的合意にとどまらず、「できる限りシンプルな制度設計」と、頻繁な変更のない「制度の確立と安定」、そして何より「企業の事務負担への配慮」が強く望まれます。

弊社は、本制度への対応としては、専門家と連携することで、サポートを提供できるよう努めてまいります。

参考文献

PwC税理士法人編、PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修(2026)「Worldwide Tax Summary OECD 新たな第2の柱セーフハーバーに関する合意を公表」『月刊 国際税務』2026年02月号(Vol.46), 国際税務研究会

デロイト トーマツ税理士法人 シニアアドバイザー 山川 博樹(2026)「新春特別企画 グローバル・ミニマム課税への対応 【3】 グローバル・ミニマム課税への対応」『月刊 国際税務』2026年01月号(Vol.45), 国際税務研究会

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