台湾の最新動向

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要旨

台湾では、製造・研究拠点としての存在感が高まる中、税務当局による移転価格調査の体制整備が進んでいます。調査対象の選定基準が明確化され、低利益率や赤字の企業、資料未整備企業などが重点的に確認される傾向にあります。さらに、2020年度には「期末一括調整制度」が導入され、予期せぬ外部要因による価格調整も認められるようになりました。今後、台湾での調査精度が高まることが予想されるため、方針策定・価格設定・文書整備といった移転価格対応を早期に進めることが重要です。

背景:台湾の存在感と日系企業への波及

台湾は日本と同様にモノづくりに長けており、TSMCの熊本進出に象徴されるように、製造・研究の要衝として国際的にプレゼンスを拡大しています。台北など北部は人口が集中しており、観光地としても有名なところが多くありますが、経済活動は西岸に集中しており、五大国税局(台北・北区・中区・南区・高雄)が各地域に所掌しています。

台湾の税務調査

構造と選定ロジック

台湾の税務調査は一般調査と特別調査に大別されます。一般調査は毎年、原則税務申告書を提出してから1年以内に行われる定期的な調査を指すのに対し、特定の税務項目に関して行われる調査は特別調査と言われ、区別されています。一般調査での対応が不十分だったことにより特別調査に発展するケースもあるようですが、いずれにせよ移転価格に関する本格的な調査は特別調査となり、通常、一般調査に比べて長期的な対応が求められることになります。(中国同様)一度特別調査対象となった企業は継続的な観察の対象になるとされ、かつて日系企業が特別調査対象になった時期もあったことから、日系企業が再び本格的な特別調査の対象になる時期が訪れる可能性も指摘されています。

移転価格調査の対象となる企業

台湾では、移転価格調査の対象とする企業の選定基準(13項目)を台湾財政部通達 「移転価格審査要綱」で定めています。例えば、以下のような基準に当てはまる企業は対象となるため、注意が必要になります。なお、日本は台湾のような明確な調査対象選定基準はないものの、似通った観点で調査対象が選定されていると考えられています。

  • 同業より粗利率・営業利益率・税引前利益率が低い
  • グループ全体黒字でも台湾だけ赤字
  • 3期にわたり損益が不規則
  • 関連者間取引資料の未整備・不提供
  • 過去に追徴課税を受けた企業

台湾では金銭貸借取引の検証にあたって、当年元日時点の台湾銀行の基準金利を超過しているか否かを確認する場合が多く、日本のように低金利の国に貸し出す場合において、基準金利以下の水準で金利設定してしまったことにより当局に着目されてしまう事例があるという指摘もあります。該当する取引を行っている企業は見直しを、これから台湾との間でグループファイナンスを検討する企業にあっては、上記のようなトレンド(及びその根拠である現地の号令等)を認知したうえで、対応を検討していく必要がありそうです。

最近の調査体制

移転価格調査の経験値は南北で差があったものの、2~3年前から五大国税局が一堂に会するトレーニングが実施されているようです。台湾では課税後に救済措置が活用されるケースは稀とされていることから、当面は多くのケースにおいて、調査現場における交渉によりダメージコントロール企図することになるでしょう。トレーニングを通して当局側の理論的な後ろ盾がしっかりしてくればくるほど、論理的であれば理屈は通り易くなると考えられ、(トレーニングの効果かどうかはさておき)実際、税務調整なしで終結した事案もあるとされています。今後救済措置がより活用し易くなる可能性もありますが、いずれにせよ事前の準備や論理的な説明が説得力を持つことになることが期待されますので、移転価格対応を推進すること意義は十分にあると考えられます。

その他のトレンド:「期末一括調整制度」

台湾は2020年度に「移転価格期末一括調整制度」を導入しました。これは、例えば期中に予期できない外部等(例:コロナ禍)が発生し、結果として関連者間取引が独立企業原則に適合できない場合、期初に暫定価格を設定し、輸入通関上、その暫定価格を使用すること、また事業年度終了後、期限内に本制度を利用する旨の申請を行うことなど、一定の要件を満たした場合には、日本でいう価格調整金のような価格の期末一括調整が認められるという制度です。比較的新しい制度ではあるものの、既に活用は進んでいるようです。

まとめ

台湾では近年税務調査対象企業の選定ロジックが明確化されたり、期末一括調整制度が導入されたり、また調査人員のトレーニングが実施されるなど、移転価格税制ないしその執行体制の整備が進められてきました。
項目としては台湾に限らない移転価格対応のセオリーにではありますが、制度・体制整備が進んだことにより、方針策定・価格設定・文書準備などの「早期の移転価格対応」は、台湾において、従来以上に意義のある取り組みになってくると考えられます。


出典

山崎千鶴・藤井洋志・山川博樹(2025年)「台湾の最新動向と移転価格実務」月刊国際税務2025年10月号58頁(税務研究会)

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