インド India– 各国の移転価格税制 –

目次

最近の動向

インド政府はここ数年、税務行政のデジタル化を強力に推進しており、税法の簡素化と納税者の事務負担軽減を目的に、リスクベースでの監査対象選定を導入しています。これに続き、2019年には「非対面監査制度(Faceless Assessment)」を開始しました。この制度は、事実確認・審査・命令案作成という三つの段階から構成され、すべてオンラインで完結できるように設計されています。ただし、移転価格案件をこの制度の対象とする正式な開始時期は、現時点では公表されていません。

また、2020〜2021年度からは、マスターファイル(MF)の提出手続きが簡素化され、インドで事業を行う多国籍企業グループのうち、1つの事業体(非居住者を含む)がグループ全体の提出を代表して行えるようになりました。これにより、グループ内での重複作業が削減され、効率的なコンプライアンス対応が可能になっています。

インドでよく問題になる恒久的施設(Permanent Establishment, PE)については、税法上、帳簿を保持していないPEへの利益配分に関する明確な規定はまだなく、不確実性が高い状況が続いています。直接税中央委員会(CBDT)は2019年に利益配分のルール案を公表し、意見募集を実施しましたが、最終的な確定には至っていません。一方、2020年4月以降は外国企業のPEも、事前確認制度(APA)やセーフハーバー制度の対象として申請できるようになっています。

さらに、2021年4月施行の新ルールでは、APAや二次調整により追加された所得について、納税者の選択により、当該APAの対象年度(遡及適用を含む)で最低代替税(MAT※法人税額が会計上の利益(調整後)の15%を下回る場合に支払う必要のある税)の計算対象とすることが認められました。これにより、年度間での取扱いの不整合が是正され、納税者の利便性が高まっています。

OECD/G20のBEPS行動計画8〜10に沿って、インドはセーフハーバー制度に「低付加価値サービス(Low Value-Adding Intra-Group Services)」を追加しています。これにより、国外関連者への支払いが上限1億ルピー、かつ最大5%のマークアップ以内であれば、損金算入が認められることとなりました。日常的なグループ内取引においては、一定の安全枠が設けられた格好になりました。

基本情報

税務当局

直接税中央委員会(財務省税務局)傘下の所得税課

移転価格税制の対象取引

インドの移転価格税制は、取引当事者の間に経営・支配・資本関係のいずれかが存在する場合に適用されます。
つまり、

  • 一方の企業が他方を直接・間接的に支配している場合
  • あるいは両者が同一の第三者に支配されている場合

その取引は「国際関連者取引」として移転価格の対象になります。
具体的には、以下のような関係が該当します。

  • 26%以上の株式を保有している関係
  • 取締役会に対する支配
  • 貸付や保証などによる経済的影響力
  • 他社の重要な無形資産(ブランド・技術など)に依存している場合
  • 原材料や製品の供給面で支配的な影響を受けている場合

このように、インドの法令では「関連者」に該当する関係を幅広く定義しています。

国際取引における適用

納税者が、インドと情報交換協定を締結していない国・地域(いわゆる「通知対象管轄区域」)に所在する企業と取引を行う場合も、移転価格税制の対象となります。

また、たとえ取引の相手が関連企業でなくても、下記の場合には、同様に移転価格税制の適用を受けます。

  • その取引条件が実質的に関連企業によって決定されている場合
  • または関連企業との間に事前の合意がある場合

国内取引にも適用されるケース

インドの移転価格税制は、一定の「国内取引」にも適用されます。
たとえば、同一グループ内の関連会社間取引で取引額が2億ルピー(約3.6億円)を超える場合は、「特定国内取引(Specified Domestic Transaction)」として移転価格税制の対象となります。

OECDとの協調状況

OCDガイドライン等への準拠状況

OECDガイドラインに概ね準拠している。

OECD/G20 BEPS包摂的枠組(IF)の参加国かどうか

Yes

MCAAへの署名状況

Yes

文書化制度の概要

インドはOECDの三層文書化制度を形式上採用しているものの、特にマスターファイルではOECD基準よりも踏み込んだ情報開示を要求しており、納税者にとってはOECD基準より厳格な対応が必要です。 文書化規定の概要は下表の通りです。

CbCR

制度の有無
通知の要否
報告期限
※報告対象期間の最終日を基準とした場合
12カ月以内
代理親会社による提出の可否N/A
罰則の有無

MF

制度の有無
OECD形式で充足するかOECD +α
作成等の要請提出
罰則等の有無

LF

制度の有無
OECD形式で充足するか概ね充足
作成等の要請同時文書化+提供(準備)
罰則等の有無

なお、マスターファイル及びローカルファイルについては、OECDフォーマットとの主な相違点として、以下のようなポイントが挙げられます。なお、CbCRについては基本的にOECDフォーマットと同様です。

マスターファイル

基本的にはOECDフォーマットを踏襲しつつも、より詳細な情報開示を求めています。具体的には、グループの全構成会社等の一覧に加え、グループ収益・資産・利益の10%以上を貢献する構成会社等に関する機能分析、無形資産の開発・管理に関与する全構成会社等のリスト、そして上位10社の非関連者の貸手を含む資金調達状況の詳細な説明などが追加的な記載事項となっています。

ローカルファイル

基本的にはOECDガイドラインと同様ではあるものの、一部修正が加えられています。

目次