最近の動向

ドイツでは、移転価格税制が引き続きドイツ連邦財務省(BMF)の立法・行政運営上の重要テーマとされており、近年、制度および実務運用の大幅な見直しが行われています。
2022年には、EUの租税回避防止指令(Anti Tax Avoidance Directive, ATAD)対応を含む法改正により、ドイツ外国税法(Außensteuergesetz, AStG)第1条が改正され、機能移転(Funktionsverlagerung)に関する評価ルールが実質的に厳格化されました。これにより、機能移転の該当性判断や評価方法において、従来以上に実態重視のアプローチが求められています。
また、同改正にあわせて税務手続法(Abgabenordnung)も改正され、移転価格文書については、税務調査において要求された場合の提出期限が短縮されるとともに、提出遅延や不提出に対する制裁規定が明確化・強化されました(一部規定は段階的に施行)。
2023年には、BMFが新たな移転価格に関する行政ガイダンスを公表し、特に以下の点が注目されています。
- 機能移転に関する取扱いの厳格化
従来認められていた軽微な重複機能は例外的に機能移転として扱わないという運用は事実上廃止され、より厳密な解釈が示された。 - 関連会社間金融取引に関する明確化
独立企業間利子率の算定においては、借手の信用力が主要な判断要素であることが再確認されるとともに、担保の有無・内容も独立企業間原則の適用対象に含まれることが明示された。これは近年の裁判例およびOECDガイドラインの動向を反映したものです。
このように、ドイツの移転価格税制は、法令・行政解釈の両面で急速に高度化・厳格化しており、特に機能移転や金融取引を含むグループ内取引については、事前の検討と文書化体制の整備が不可欠となっています。
基本情報
税務当局
ドイツ連邦中央税務局/ドイツの州当局
移転価格税制の対象取引
ドイツの移転価格税制では、外国税制調整法(AStG)第1条第2項に基づき、**関連当事者(nahestehende Personen)**の範囲が広く定義されています。具体的には、以下のいずれかに該当する場合、当事者間取引は移転価格税制の対象となります。
資本関係または支配関係が存在する場合
いずれかの当事者が、他方に対して直接または間接に25%以上の実質的持分を保有している場合、または持分割合にかかわらず支配的影響力を行使できる場合。
第三者による共通支配が存在する場合
同一の第三者が、両当事者に対して実質的持分を有する、または支配的影響力を行使できる場合。
事業関係を超えた影響力または利害関係が存在する場合
当事者間の取引条件が、通常の事業関係のみでは説明できず、個人的・経済的利害関係や、取引外の事情に基づく影響力によって左右されていると認められる場合。
このように、ドイツの関連当事者規定は、形式的な資本関係だけでなく、実質的な影響力や利害関係を重視しており、持分割合が25%未満であっても、移転価格税制の適用対象となる点に注意が必要です。
OECDとの協調状況
OCDガイドライン等への準拠状況
OECD加盟国であり、概ね準拠している。
OECD/G20 BEPS包摂的枠組(IF)の参加国かどうか
Yes
MCAAへの署名状況
Yes
文書化制度の概要
ドイツは、2016年1月1日より移転価格文書化に関してBEPS行動13を適用している。
文書化規定の概要は下表の通りです。
CbCR
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| 通知の要否 | 要 |
| 報告期限 ※報告対象期間の最終日を基準とした場合 | 12カ月以内 |
| 代理親会社による提出の可否 | 可 |
| 罰則の有無 | 有 |
MF
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| OECD形式で充足するか | 概ね充足 |
| 作成等の要請 | 提供(準備) |
| 罰則等の有無 | 有 |
LF
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| OECD形式で充足するか | 概ね充足 |
| 作成等の要請 | 同時文書化+提供(準備) |
| 罰則等の有無 | 有 |
なお、OECDフォーマットとの重要な相違点として、以下のような点が挙げられます。
マスターファイル/ ローカルファイル
ドイツの移転価格文書化制度は、OECDのBEPS Action 13を踏まえ、マスターファイルおよびローカルファイルという基本的な枠組み自体はOECD標準と整合しています。一方で、その運用および具体的な記載要件においては、ドイツ独自の厳格な要素が上乗せされている点に注意が必要です。
特に、ドイツでは移転価格文書化義務が原則として取引単位で適用されており、取引金額の重要性に基づく明確な免除基準は設けられていません。そのため、金額が相対的に小さい取引であっても、文書化の対象となるのが一般的です。
また、ドイツ一般税法(Abgabenordnung)第90条第3項およびその施行令(GAufzV)では、OECDマスターファイル・ローカルファイルとは異なる、より具体的かつ詳細な文書化項目が列挙されています。例えば、**移転価格が決定された時点または期間(価格設定アプローチ)**や、**その決定時点において入手可能であった情報(ex ante 情報)**について、明示的な文書化が求められます。
さらに、費用配分やコストシェアリング契約(CSA)、研究開発活動、継続的な損失の発生理由、事業戦略や事業再編が取引条件に与える影響などについても、個別かつ詳細な説明が要求されます。これらの要件は、形式的にはOECDガイドラインと整合していると説明され得るものの、実務上はOECDテンプレートで想定される水準を超える情報提供が求められる場面が少なくありません。
ドイツ税務当局は、移転価格文書化がOECD標準を超えないことを公式に保証しておらず、実際の税務調査では、OECD要件を前提としつつも、ドイツ法に基づく独自の詳細情報を追加的に求める傾向が見られます。そのため、ドイツにおける移転価格対応においては、OECD基準を満たすだけでなく、ドイツ特有の文書化要件を見据えた事前的な対応が不可欠となります。
なお、CbCRについては、重要な相違点はない。

