最近の動向

英国において移転価格税制は、引き続き社会的・政治的に重要な政策課題と位置づけられています。その背景として、移転価格調査件数の増加に加え、英国恒久的施設(PE)の回避や、十分な経済的実体を欠く取引・事業体を対象とする迂回利益税(Diverted Profits Tax:DPT)の適用事例が増加している点が挙げられます。
こうした状況を受け、英国歳入関税庁(HMRC)は2019年に「利益迂回に係る開示制度(Profit Diversion Compliance Facility:PDCF)」を導入しました。PDCFは、DPTリスクを有する多国籍企業に対し、移転価格の再検討、関連会計期間における事実関係の完全開示、ならびに追加の英国税および利息を前提とした自主的な是正を促す枠組みであり、現在もHMRCの移転価格調査実務において重要な役割を果たしています。
また、英国はOECD BEPS行動計画13に沿った移転価格文書化制度を正式に導入しました。2023年4月1日以降開始事業年度から、国別報告事項(CbCR)義務の対象となる多国籍企業グループに対し、マスターファイルおよびローカルファイルの作成・保持が義務付けられています。さらに、これら文書の結論に至る分析過程を簡潔に整理した「要約監査証跡(Summary Audit Trail)」の作成も追加要件として導入されました。これらの文書は、HMRCからの要請があった場合に提出が求められます。
なお、BEPS防止措置実施条約(MLI)は2018年10月1日に英国で発効しており、英国の租税条約ネットワークに対しても継続的な影響を及ぼしています。
基本情報
税務当局
英国歳入関税庁(His Majesty’s Revenue and Customs、HMRC)
移転価格税制の対象取引
当事者は、一方の当事者が他方の当事者の経営、支配、または資本に直接的または間接的に関与する場合、または同一の者または複数の者が両当事者の経営、支
英国の移転価格税制では、関連当事者(connected parties)間で行われる取引が規制対象となります。関連当事者とは、一方が他方の経営、支配または資本に直接または間接に関与している場合、あるいは同一の者(又は複数の者)が両当事者の経営、支配または資本に関与している場合を指します。
英国では、関連当事者該当性の判断において、特定の出資比率のみを機械的に適用するのではなく、実質的な支配や影響力の有無が重視されます。そのため、50%未満の持分であっても、取締役の任免権、重要な財務・経営方針への関与、又は複数当事者による共同支配が認められる場合には、関連当事者と判断されることがあります。
特に合弁事業(ジョイント・ベンチャー)においては、各当事者が共同して事業運営や資金調達に関与するケースが多く、形式的な持分割合にかかわらず、実質的な参加関係(participation)が認定されやすい点に留意が必要です。
OECDとの協調状況
OCDガイドライン等への準拠状況
OECD加盟国であり、概ね準拠している。
OECD/G20 BEPS包摂的枠組(IF)の参加国かどうか
Yes
MCAAへの署名状況
Yes
文書化制度の概要
英国では、連結売上高が7億5000万ユーロを超える大企業グループに対し、2023年4月以降の会計期間からOECDガイドラインに準拠したマスターファイル及びローカルファイルの作成が義務付けられ、BEPS行動13が適用されている。
文書化規定の概要は下表の通りとなっている。
CbCR
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| 通知の要否 | 要 |
| 報告期限 ※報告対象期間の最終日を基準とした場合 | 12カ月以内 |
| 代理親会社による提出の可否 | N/A |
| 罰則の有無 | 有 |
MF
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| OECD形式で充足するか | 概ね充足 |
| 作成等の要請 | 同時文書化+提供(準備) |
| 罰則等の有無 | 有 |
LF
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| OECD形式で充足するか | 概ね充足 |
| 作成等の要請 | 同時文書化+提供(準備) |
| 罰則等の有無 | 有 |
なお、各文書において求められる記載内容は概ねOECDフォーマットと同様です。ただし、ローカルファイル
については、近年、移転価格の設定および文書化において納税者が特に考慮すべき特定の領域に関するガイダンスが公表されていることから、英国現地でのコンプライアンス対応上は、当該ガイダンスも踏まえた対応が必要であると言えます。

