最近の動向

メキシコの移転価格税制は、従来から独立企業原則を採用しつつも、運用面では独自要件が目立っていました。しかし近年は、BEPSプロジェクトや2022年版 OECDガイドライン補充適用の明確化を通じて、OECD標準へのコンバージェンス(Action 13の3層文書化等)が一段と進んでいます。
また、近年におけるメキシコ固有の移転価格関連動向として、BEPS行動計画12(義務的開示制度)を踏まえ、連邦税法(Código Fiscal de la Federación, Federal Tax Code(FTC))に基づく「報告対象スキーム開示制度(Mandatory Disclosure Rules:MDR)」が導入されています。本制度は、メキシコ税務当局による税務情報の早期把握を可能とするものです。
MDRは、税務アドバイザー(税務スキームを設計、販売、組織化、実施した者、または実施可能なスキームを提供した者)に対し、所定の「報告対象スキーム」について税務当局への開示義務を課しています。なお、ここでいう税務アドバイザーには、メキシコに拠点を有する関連者と同一ブランドや商号で税務助言を行う外国の会計事務所・法律事務所・コンサルティング会社等も含まれ得る点が特徴です。
報告義務は、原則として2021年1月1日以降に設計または実施されたスキームに適用され、一定の場合には2020年以降に税務上の効果が生じるスキームも対象となります。新たな報告対象スキームについては、原則として助言提供等から30日以内に、税務当局への報告が求められます。
報告対象となるスキームは、連邦税法において14類型が具体的に列挙されており、租税条約の濫用、損失の不適切な利用、不透明な受益者構造、ハイブリッド取引等、税務当局が高リスクとみなす取引構造が含まれます。すべての税務戦略が対象となるわけではなく、法定類型への該当性が判断基準となります。
このように、メキシコのMDRは、国際的な税務アドバイザーや多国籍企業グループにも広く影響を及ぼす制度であり、移転価格を含むクロスボーダー取引については、事前にMDR該当性を検討し、適切な開示体制を整備することが不可欠です。
基本情報
税務当局
メキシコ国税庁(Servicio de Administración Tributaria、SAT)
移転価格税制の対象取引
メキシコの移転価格税制は、法人・個人ないし恒久的施設(PE)の関連者(partes relacionadas)間で行われる取引を対象とします。関連者の該当性は、資本関係に加え、経営、管理、その他重要な影響力の有無などを踏まえて判断され、形式的な持分関係だけでなく実質的な関与が重視されます。
具体的には、以下のような関係にある当事者間取引が移転価格税制の適用対象となります。
- 支配関係または重要な影響力が存在する場合
一方が他方を直接または間接に支配している、または両者が同一の者の支配下にある場合。これには、親会社・子会社・関連会社のほか、取締役や主要な経営陣を通じた実質的な影響力が及ぶ場合なども含まれる。 - 同一法人の本店と恒久的施設(PE)間取引
外国法人のメキシコ恒久的施設と本店、または同一法人に属する複数の恒久的施設間の取引は、移転価格上、関連者間取引として取り扱われる。 - 合弁事業等における実質的関与がある場合
合弁事業や共同事業についても、出資比率や契約内容等により、支配または重要な影響力が認められる場合には、関連当事者に該当する。
OECDとの協調状況
OCDガイドライン等への準拠状況
OECD加盟国であり、概ね準拠している。OECDガイドラインは、ITL(租税条約)または国際租税条約と矛盾しない限り、諸規則の解釈において依拠することができるものとされている。
OECD/G20 BEPS包摂的枠組(IF)の参加国かどうか
Yes
MCAAへの署名状況
Yes
文書化制度の概要
メキシコは、2016年1月1日より移転価格文書化に関してBEPS行動13を適用している。
文書化規定の概要は下表の通りとなっている。
CbCR
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| 通知の要否 | 要 |
| 報告期限 ※報告対象期間の最終日を基準とした場合 | 12カ月以内 |
| 代理親会社による提出の可否 | N/A |
| 罰則の有無 | 有 |
MF
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| OECD形式で充足するか | OECD+α |
| 作成等の要請 | 提出 |
| 罰則等の有無 | 有 |
LF
| 制度の有無 | 有 |
|---|---|
| OECD形式で充足するか | OECD+α |
| 作成等の要請 | 同時文書化+提供(準備)・提出 |
| 罰則等の有無 | 有 |
メキシコでは、2017年以降の改正所得税法(LISR)第76-A条に基づく文書化制度が整備されています。形式上はOECDのBEPS Action 13に沿った三層構造を採用していますが、マスターファイルおよびローカルファイルについては、OECDフォーマットと比較して以下のような実務上の相違点が存在します。
マスターファイル
多国籍企業グループの事業活動や財務・資金調達活動に関する説明において、より具体的かつ定型的な情報開示が求められる。これらの移転価格情報申告書は、メキシコの納税者が維持する通常の移転価格同時文書とは別個の追加的義務として位置づけられる。
ローカルファイル
納税者のMNEバリューチェーンへの関与の詳細、
移転価格ポリシーの具体的説明、
取引単位での機能分析および無形資産の開発、強化、維持、保護、活用(DEMPE)分析、
財務情報のセグメントデータ、
さらに、評価対象取引の相手方である関連当事者の財務情報など、より詳細な情報開示が求められます。
また、これらの移転価格情報申告書は、メキシコの納税者が維持しなければならない。 なお、CbCRについては、特に重要な違いはない。

