国際取引が増大する中、日本の税務当局(国税庁)は「移転価格税制」に関する調査・執行を強化しており、企業にとって無視できないリスクとなっています。以下、近年の動向と対応の要点を整理します。
- 簡素化・合理化アプローチ(“Amount B”)の検討とFAQ公表
OECD/G20のBEPS枠組みにおける「利益B(Amount B)」の導入に関する国際的な動きを受け、国税庁は2025年6月に「移転価格税制の適用に係る簡素化・合理化アプローチに関するFAQ」を公表しました。
日本では、現時点で国内制度として利益Bを導入する計画はなく、当面は見送るとの立場です。したがって、従来の独立企業間価格の算定方法を用いて独立企業間価格を算定する実務が継続します。また、相手国側が利益Bを導入していたとしても、日本の移転価格税制の執行は影響されない旨が上記FAQでも明記されています。
一方、国外関連者を有する多国籍企業の観点では、進出先国/地域でこのアプローチが導入された場合の税務上の影響や対応について、留意する必要が出てきています。
- 調査のトリガーとなる別表17(4)とその内容に応じた対応
税務当局は、以前より法人税申告書に国外関連者との取引がある場合の別表17(4)「国外関連者に関する明細書」の提出状況を含め、これを調査選定の重要な資料としています。別表17(4)の記載内容(国外関連者の名称・所在地・取引内容等)は、移転価格上のリスクを判断するための“初動データ”としての役割を持っています。
したがって、国外関連者の利益率が高い一方で日本側の利益率が低い場合など、税務当局が関心を寄せると見込まれる状況になっている企業は、なぜそのような状況になっているのか、明確に説明できる必要があり、不作為でそのような状況になっている場合には移転価格の見直しの要否から検討する必要があります。
- 移転価格調査体制とターゲットの変化
移転価格税制導入後、長らくは大規模法人を中心に国税局が移転価格調査を主導するケースが実務の中心でした。一方、大手が事前確認制度の活用や、移転価格ポリシー、文書化資料の整備を進めてきた結果、大規模な移転価格更正事案の発生は稀になりました。
一方、近年では中小・中堅企業の皆様を対象とする調査が増加しています。実際、近年は税務署にも移転価格調査経験者を配置するなどといった当局側の動きもあり、税務署主導による調査の割合が高まっているとの指摘があります。
統計的にみても、一件当たりの課税金額が低下してきていることは明らかであり、調査現場でも重点調査事項になっているという話を耳にすることもあります。
したがって、中小・中堅企業の皆様も、移転価格調査には十分に備えておくことが推奨されます。
求められる対応策
以下は国外関連取引を行う法人が今後の税務リスクを抑えるために押さえておきたいポイントです。上記と一部重複しますが、具体的なアクション項目ごとに整理しました。
| 項目 | 内容等 |
| 別表17(4)の正確で詳細な記載と記載内容の分析 | 国外関連者の名称・所在地・資本関係・取引内容などを、正確かつ最新の情報で記載する必要があります。記載に不備があったり、所得移転の蓋然性が疑われる内容になっていたりすると、調査選定時に“リスクあり”と見なされる可能性が高まります。 |
|---|---|
| 移転価格文書(ローカルファイル等)の整備 | 独立企業間価格の算定方法の選定理由、比較対象企業の財務データ、機能・リスク分析などを含む文書化が求められます。税務当局から資料提出を求められた際の準備が重要です。 |
| 実務的な利益Bの動向チェック | 日本は導入見送りですが、進出先の導入有無、導入可能性を含め、グループ全体の価格設定ポリシーとの整合性や対応方針を検討しておくことが望ましいです。 |
| ガバナンス・内部統制の改善 | 経営陣が移転価格の考え方を理解し、責任を持てる体制を構築することが重要です。例えば、社内報告ルート・責任部門の明確化、ポリシー順守状況のチェックリストの共有など、制度が複雑化する中にあっても適切な対応をタイムリーに取れる体制づくりが必要です。 |
| 早期対応・予防措置の実施 | 税務調査前段階の、定期的な点検・外部レビューの実施。問題が見つかった場合、改める余地があるうちに対応しておくことがコスト・時間の節約になります。 |

